里山の豊かさと聞くと、まず生物の多様性を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、里山の豊かさはそれだけではありません。里山はそこに生活する人々を支える木材や食べ物など、実に様々な恵みをもたらしてくれていました。人々はその土地ごとに異なる自然の恵みを受け取り、恵みをえ続けるために里山の手入れをして、長い時間かけてそれぞれの土地にあった生活の中で独自の豊かな文化を生み出してきたのです。それが結果的に生物多様性の保全,里山との共存につながりました。このような、生態系と文化の双方の豊かさをあわせて「生物文化多様性」と呼びます。
昨今、SDGsが全世界的な関心の的となっていますが、そのSDGsの目標達成に資する人材育成のため、教育現場ではESD(持続可能な開発のための教育)に注目が集まっています。そのような社会の趨勢の中で、自分事として生態系との共存に取り組む人材を課題解決型の学びによって育てていくESDを研究・開発していくために、この里山ESD Baseは作られました。
日本の多くの地域にとって里山は身近な自然です。その里山の「生物文化多様性」が近年失われつつあります。自然を畏敬し共存しながら日本の文化を醸成してきた里山を再度価値づけ,そこからESDを始めたい。私たちはそう考えています。人々が不便な生活を我慢して生態系を維持していくのではなく、人と生態系が豊かに共存していく社会を作り出していくために、まずは子どもたちに里山と共存していく経験をしてもらいたい。生物の多様性を知るとともに、工芸・美術・歴史・文学・スポーツなど様々な視点から里山と共存してきた人たちの知恵に楽しみながら触れてほしい。里山は木材や食べ物をもたらし、山歩きの楽しみを与えてくれるだけでなく、風水害から人々を守る防災・減災の要でもありました。里山と共存してきた昔の人たちの知恵を知ることは、私たちの生活を今以上に豊かで安全安心で豊かなものにしてくれるはずです。
持続可能な開発に取り組める人材の育成のために、まずは生態系との共存を自分事と捉えられる教育を目指し、生物文化多様性と異分野融合、課題解決型の学び(PBL)をキーワードに里山ESD Baseは新しい知をどんどん発信していきたいと思っています。
代表 倉田薫子